2025.02.20
【2024年版】工場の省エネ事例3選!具体的な8つの改善項目を紹介
地球温暖化を防止する環境保護対策の1つとして、一定規模以上の事業者は省エネ法への対応が必要です。近年では、環境保護対策を推進する大企業が、取引相手である小規模法人にも製造工程でのCO2排出量削減などを求める動きもあります。
しかし、「小さな町工場でどのような省エネ対策ができるか分からない」「工場の省エネ対策の事例を知りたい」などの悩みを抱える方も少なくありません。
そこで本記事では、工場の設備別の具体的な省エネ対策や3つの取り組み事例を紹介します。具体的な方法が分かれば、自社でできる省エネ対策を検討しやすくなりますので、ぜひ参考にしてください。
工場の省エネで実践したい8つの改善項目
省エネ対策で無駄なエネルギー消費をなくすことは基本事項であり、不要時の電源オフによる待機電力の削減は、取り組みやすい対策の1つです。
以下では、待機電力の削減以外の省エネ対策に工場が取り組むための、具体的なアイディアを8つの設備に分けて紹介します。
- 自家消費型太陽光発電の導入
- 照明
- 空調・換気設備
- コンプレッサー
- 生産設備
- ボイラ・給湯・配管
- 受変電設備
- デマンド管理
どのようにすれば省エネできるのか、1つずつ見ていきましょう。
自家消費型太陽光発電の導入
太陽光発電システムを導入し、工場の消費電力を購入から自家発電に変更することでCO2排出量を削減できます。自社に太陽光発電システムを設置する際の運用方法は、以下の3つです。
種類 | 運用方法 |
自己所有 | ・自社で太陽光発電設備を購入して電力を自家消費する
・余剰売電も可能 ・メンテナンスも自社の責任で業者に依頼して実施する ・節税対策のメリットがある |
オンサイトPPA | ・第三者の発電事業者が購入する太陽光発電設備を自社に設置する
・メンテナンス費用も発電事業者が負担する ・工場側は発電事業者に消費した分の電気料金を支払う |
リース | ・リース品の太陽光発電設備を自社に設置する
・メンテナンス費用はリースの事業者が負担する ・工場側はリース料金を支払う ・余剰売電も可能 |
オンサイトPPAスキームやリースモデルの利用により、設備投資費の支出を押さえて太陽光発電を導入できます。
照明
照明設備での省エネ方法は、以下の2つです。
- 従来の照明をLEDに変更
- 照明器具が多い場所で不要な分を間引き
近年では少ない消費電力で水銀灯と同等の明るさを確保できる、LED照明が開発されています。実際に水銀灯とLED照明での消費電力の差は、以下表のとおりです。
照明器具の種類 | 消費電力 |
250Wの水銀灯 | 260W(安定器を含む) |
水銀灯250形相当のLED照明 | 78W(直流電源を含む) |
参考:工場の省エネルギーガイドブック2023|一般社団法人省エネルギーセンター
会議室や倉庫など明るさが減っても業務に支障が出ない場所で、使用する照明を間引くことで消費電力を削減し、省エネできます。
空調・換気設備
空調や換気設備においての、省エネ対策には以下の方法があります。
省エネ対策の種類 | 具体的な対策方法 |
適切な温度設定 | ・設定温度が適切でないと、エネルギーロスが大きい
・適切な温度設定により電力消費量が下がる |
ファンやポンプのインバータ化 | ・ファンやポンプのモーターは、制御しなければ最高出力で稼働し続ける
・インバータの搭載によりモーターの回転を制御すれば、電力消費量を低減できる |
室内機のフィルターや室外機の清掃 | ・フィルターの目詰まりや本体の汚れは、空調の効率が下がる原因
・1ヶ月に1回程度の清掃により、消費電力量を少なく保てる |
室外機の負荷軽減 | ・室外機の排気口の辺りを塞いでいると、冷房の効率が低下する
・室外機周辺の温度が高いと、消費電力量が増加する ・排気口を塞がないよう距離を取った位置に、日除けを設置することで室外機の負荷を軽減できる |
既存設備の使用年数や状態により最適な省エネの方法が変わるため、自社に合った対策を検討しましょう。
コンプレッサー
エアーコンプレッサーの具体的な省エネ方法は、以下のとおりです。
省エネ対策の種類 | 具体的な対策方法 |
圧力の適正化 | ・圧力が高いと電力消費量が多い
・圧力を下げると消費電力量が減少する |
エアー漏れを防止 | ・エアー漏れはコンプレッサーの性能低下の原因
・定期的に以下でエアー漏れがないか点検を実施 ・エアーガン ・エアーホース ・ドレーンフィルターやドレーンコックバルブ ・機械の接続部や配管の継ぎ手 |
エアーブロー風量の調節 | ・必要な風量に対してノズル口径が大きいと、不要な電力を消費する
・適切なサイズのノズル口径を選ぶことで、無駄な電力消費を削減できる |
高効率な機器の導入 | ・性能の良い機器に交換すると、消費電力を低減できる
・高効率機器への入れ替え事例は、以下のとおり ・インバータ式コンプレッサーの導入 ・1段圧縮機を2台稼働させている場合、2段圧縮機に変更 |
吸気温度の低減 | ・吸気温度が高いと、消費電力量が増える
・低い吸気温度になると空気の密度が増し、コンプレッサーへの負荷を低減できる |
フィルターの清掃 | ・フィルターが目詰まりしていると、消費電力量が増える
・定期的な清掃により電力の消費を抑えられる |
空調や換気設備と同様に、導入している機器や使用環境で最適な対策が変わるため、自社の状況に合った省エネ方法を探すことをおすすめします。
生産設備
工場の生産設備における具体的な省エネ対策は、以下のとおりです。
省エネ対策の種類 | 具体的な対策方法 |
加熱設備・タンクなどの断熱・保温 | ・断熱シートの利用により、設備からの放熱を防止できる |
工業炉の保温・断熱 | ・炉壁の断熱性能を高めることで、灯油や液化天然ガス(LNG)を燃料とする設備の省エネ効果を高められる
・工業炉用の断熱材は種類が多いため、用途に応じた素材の選定が必要 |
各種設定値の適正化 | ・設定値が適正でないとエネルギーのロスが大きい
・設定を見直したい項目は、以下のとおり ・設定温度 ・流量 ・圧力 ・工業炉の空気比 |
業種により使用する生産設備の種類が変わるため、自社の機器に合わせた省エネ対策の検討が必要となります。
ボイラ・給湯・配管
ボイラや給湯機で実施できる省エネ対策には、以下のようなものがあります。
省エネ対策の種類 | 具体的な対策方法 |
配管の保温や断熱 | ・配管に保温材を導入して断熱性能を高めることで、エネルギーロスが低減する |
廃熱の回収 | ・回収した廃熱を利用する排熱利用熱交換器の導入により、燃料代を削減できる |
設定値の適正化 | ・各種設定値の適正化で、電力消費量を少なくできる
・見直しが必要な項目は、以下のとおり ・空気比 ・蒸気圧力 ・温度 |
高効率な設備の導入 | ・熱効率の高い機器の導入により、CO2排出量を削減できる
・機器交換の事例 ・ボイラの燃料を重油からガスに切り替え |
ボイラのエネルギーは化石燃料やガスなど種類が豊富にあります。このため、既存設備の燃料に応じた、効率を高められる対策の検討が必要です。
受変電設備
設置から年数が経過した受変電設備は電力の損失が大きいため、高効率タイプの設備に交換することで省エネできます。以下のグラフは、受変電設備の損失を比較したものです。
出典:高効率変圧器の導入|九州電力
30年前の設備とスーパー高効率タイプの受変電設備で比較すると、電力の損失量は1/3程度に減少します。変圧器の損失を減らして、エネルギーロスの低減を図れるでしょう。
デマンド管理
電力の使用状況を24時間監視できるデマンド監視装置の導入と活用も、省エネ対策となります。
デマンド値は、電力会社が電気料金を決定する際に活用するデータです。このデマンド値を監視して、設定した数値を超えないよう設備の動作を制御できます。
電力の使用量を制御することで、電気料金の削減を期待できるでしょう。
工場の省エネ改善事例3選
実際に省エネ対策に取り組んだ工場の事例を、業種別に3つ紹介します。
- 清涼飲料水製造業の事例
- 印刷業の事例
- 自動車リサイクル事業の事例
どのようにして工場の省エネを実現させたのか、順に見ていきましょう。
参照:省エネ法の手引き工場・事業場編|経済産業省
清涼飲料水製造業の事例
宮崎県の清涼飲料水を製造する工場の、省エネ対策への取り組み事例です。
抱えていた課題
- 液化天然ガス(LNG)コストの削減
省エネの取組み内容
- 回収能力不足で一部廃棄していた軟水(熱源)を回収するラインを新設
- ラインには工場内に放置していた以下の設備を再利用
- 蒸気ドレン回収短悪
- 送水ポンプ
- サニタリ配管
- 回収した軟水をボイラ給水タンクに戻し、タンク内を昇温するように調整
エネルギー使用量の変化
- ボイラ給水タンク内の温度が約25℃上昇
- 貫流ボイラ燃料のLNG消費量を229kL/年の削減に成功
- 省エネルギー率は約3%
印刷業の事例
福岡県で印刷にデジタル技術も活用したビジネスを展開している工場での、省エネ対策事例を紹介します。
抱えていた課題
- 設備の老朽化によるエネルギー消費効率の悪化
- エネルギー管理の体制や手法の見直し
省エネの取組み内容
- 導入から15年以上経過した既存のコージェネレーション650kW×2台を、400kW×1台に変更
- コージェネレーションと連携稼働する廃熱温水投入型冷凍機を導入
エネルギー使用量の変化
- エネルギー使用量は年間で約77kL削減
- 省エネルギー率は約26%
自動車リサイクル事業の事例
福岡県で環境にやさしい自動車リサイクルを追求している工場における、省エネ対策への取り組み事例です。
抱えていた課題
- 省エネ法への対応
省エネの取組み内容
- 事務所と工場内の照明をLEDに変更
- 空調を高効率タイプの機器に交換
エネルギー使用量の変化
- 省エネ対策への取り組み開始から2年で、約66,000kWh/年のエネルギー使用量を削減
- 省エネルギー率は約23%
工場の省エネを促進するための補助金や支援策
省エネ対策で老朽化した設備を高効率な最新の機器に交換する場合など、設備投資が必要となります。金額によっては負担が大きいため、工場の負担を減らして省エネを促進できるよう、以下のような補助金や支援策が用意されています。
- 省エネルギー設備の導入を促進するための補助金
- 省エネルギー診断の補助金
- 省エネルギー設備投資利子補給金助成事業費補助金
- 環境・エネルギー対策資金
どのような支援を受けられるのか、1つずつ説明します。
省エネルギー設備の導入を促進するための補助金
工場の省エネ促進を目的とした、法人と個人事業主向けの補助金制度は、以下の2つです。
- 省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金
- 省エネルギー投資促進支援事業費補助金
いずれの補助金も2024年度の2次公募が終了しているため、補正予算による補助金の情報を待つ必要があります。
省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金
導入する設備の種類により、支援を受けられる類型が以下の3つに分かれます。
- 工場・事業場型
- 電化・脱炭素燃転型
- エネルギー需要最適化型
補助対象となる設備や、補助率などの詳細は、以下図表のとおりです。
出典:省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金|一般社団法人環境共創イニシアチブ
省エネルギー投資促進支援事業費補助金
指定された設備とEMS機器を導入するかにより、受けられる支援内容が変わる補助金制度です。支援内容は、以下の2つに分かれます。
- 設備単位型
- エネルギー需要最適化型
以下の図表は、対象設備や補助率など支援の詳細です。
出典:省エネルギー投資促進支援事業費補助金|一般社団法人環境共創イニシアチブ
省エネルギー診断の補助金
工場のエネルギー管理状況の診断を、格安価格で受けられる補助制度が3つ用意されています。
- 中小企業等に向けた省エネルギー診断拡充事業費補助金
- エネルギー利用最適化診断等事業
- 地域エネルギー利用最適化取組支援事業
詳細を順に見ていきましょう。
中小企業等に向けた省エネルギー診断拡充事業費補助金
専門家によるエネルギー管理状況の診断を受けられる補助制度です。コース別の料金は、以下図表のようになります。
出典:省エネクイック診断|一般社団法人環境共創イニシアチブ
エネルギー利用最適化診断等事業
3つのコースから診断内容と対象設備を選択できる、支援制度です。
- 省エネクイック診断
- 省エネ最適化診断
- 省エネお助け隊
診断内容の詳細は、以下図表のようになります。
出典:省エネ診断の比較|経済産業省
地域エネルギー利用最適化取組支援事業
省エネ法の規制対象外となる中小企業にも省エネ対策が求められる動きが加速している中で、自治体などと連携して取り組みを支援することを目的とした事業です。中小企業の省エネに関する課題を見つけて、専門家によるアドバイスによりPDCAの各段階で支援を受けられます。本補助事業の全体像は、以下図表のとおりです。
出典:令和6年度 地域エネルギー利用最適化取組支援事業|一般社団法人環境共創イニシアチブ
省エネルギー設備投資利子補給金助成事業費補助金
産業・業務部門での省エネ設備投資を促進することを目的とし、要件を満たした事業への融資利息の一部が補給される事業です。
以下3つのうち、いずれか1つを満たすことが補助の要件となります。
- エネルギー消費効率が高い設備を導入する
- 省エネルギー設備を導入することで、エネルギー消費原単位が1%以上改善する
- データセンターのクラウドサービス活用やEMS導入により省エネにする
補助内容と受付期間は、以下図表のとおりです。
出典:省エネルギー設備投資利子補給金|一般社団法人環境共創イニシアチブ
予算額に到達した時点で受付は終了となるため、第3〜4回の募集実施は未定となります。
環境・エネルギー対策資金
日本政策金融公庫による融資で、省エネの促進を図る施策です。限度額や利率など限度額の詳細は、以下図表のようになります。
出典:環境・エネルギー対策資金|日本政策金融公庫
法定耐用年数を超過した設備の高効率な機器への入れ替えが必要で、融資を検討している工場には利用しやすい支援策です。
工場の省エネは社員全員で取り組むことが成功の秘訣
省エネ対策を工場で成功させるためには、会社全体での取り組みが重要です。高効率の機器を導入すれば、省エネ効果は得られます。しかし、こまめな消灯や待機電力の削減などで省エネ活動を成功させるためには、社員の協力が必要不可欠です。
勉強会の開催など意識改革により、企業一丸となって省エネに取り組む体制をつくり出せるでしょう。
まとめ|工場の省エネは事例を参考に適切な計画を
工場の省エネは、抱えている課題や使用している設備などにより、対策方法が変わります。具体的に対策できる設備は、以下の8つです。
- 自家消費型太陽光発電
- 照明
- 空調・換気設備
- コンプレッサー
- 生産設備
- ボイラ・給湯・配管
- 受変電設備
- デマンド管理
自社でできる対策が思いつかない場合でも、既に取り組んでいる事例にヒントがあります。専門家のアドバイスを受けられる支援策なども上手に活用すれば、自社に合った省エネ対策を見つけられるでしょう。
自社の省エネ対策を専門家に相談しながら検討したいとお悩みの方は、ぜひエコラボにご相談ください。